東京高等裁判所 平成8年(行ケ)221号 判決 1999年6月08日
東京都台東区台東3丁目37番8号
原告
コロナ産業株式会社
代表者代表取締役
高﨑博
訴訟代理人弁理士
志賀正武
同
高橋詔男
同
渡辺隆
同
成瀬重雄
東京都品川区二葉1丁目3番25号
被告
日本電球協同組合
代表者代表理事
堀内喜八郎
訴訟代理人弁理士
尾股行雄
主文
特許庁が平成8年審判第3002号事件について平成8年8月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、考案の名称を「装飾電球用包装枠」とする実用新案登録第2013754号考案(昭和63年7月11日実用新案登録出願、平成5年6月30日出願公告、平成6年4月6日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。原告は、平成8年2月26日、被告から、本件考案の実用新案登録の無効の審判の請求を受け、平成8年審判第3002号事件として審理された結果、平成8年8月30日に「登録第2013754号実用新案の登録を無効とする。」との審決を受け、平成8年9月9日にその謄本の送達を受けた。
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲
「コードに多数の豆電球が取付けられた装飾電球用の包装枠であって、
コード収納用の凹溝と、
該溝の両側にほぼ水平方向に連設された電球支持台と、該電球支持台の基部上側に突設されたフック及び電球支持台の中央部上側に架設された補助フックとを有する
装飾電球用包装枠。」(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本件考案の実用新案登録請求の範囲は、前項記載のとおりである。
(2) 引用例
審決の甲第1号証(本訴の甲第3号証。実公昭61-28783号公報)(以下「引用例」という。)には、「コードに多数の豆電球が取付けられた装飾電球用の包装枠であって、コード収納用の凹溝と、該溝の両側にほぼ水平方向に連設された電球支持台と、該電球支持台の基部上側に突設されたコード挾持部及び電球支持台の端部上側に突設されたソケット挾持部とを有する装飾電球用包装枠」の技術が記載されている(以下「引用例(1)の技術」という。)。
(別紙図面(2)第4図参照)
(3) 対比
本件考案と引用例(1)の技術とを比較すると、(イ)電球支持台における電球又はソケットの支持箇所を、本件考案では、電球支持台の中央部としたのに対し、引用例(1)の技術では、電球支持台の端部とした点(相違点<1>)、(ロ)電球若しくはソケットの基部又はコードの端部の支持部、及び、電球又はソケットの支持部について、本件考案では、これらの支持部をフックとしたのに対し、引用例(1)の技術では、これらの支持部を挾持部とした点(相違点<2>)で相違し、その余は一致する。
(4) 相違点についての判断
(イ) 相違点<1>について
相違点<1>に係る本件考案の構成は、換言すれば、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することであり、本件考案は、この構成によって、電球支持台の端部である側縁を、その外側に配置される箱体の内面に突き当て、箱体に対する包装枠の位置決めをすることができるようにしたものである。一方、引用例(1)の技術は、電球支持台の端部に形成した基板係止爪141、141’によって箱体に対する包装枠の位置決めをしたものであるが、引用例の第1図(別紙図面(2)第1図参照)及び明細書中の同図に関する記載によれば、引用例には、装飾用電灯を保持する凸状部2、3の外側に包装用箱の底面に面接触する凸状保持部4、5を設け、凸状保持部4及び5の端部を包装用箱の側板によって固定した中仕切りが記載されており、したがって、引用例の上記記載から、包装枠を箱体に対して位置ずれを起こさないよう固定するために、包装枠の端部を箱体の内面に突き当たる位置まで箱体の底面に沿って延長するという技術(以下「引用例(2)の技術」という。)を読み取ることができるところ、引用例(1)の技術において、基板係止爪141、141’に換えて、上記の引用例(2)の技術のような手段を用い、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものと認められる。
(ロ) 相違点<2>について
本件考案のフック及び補助フックは、いずれも被支持部材に対して多少なりとも抜け止め作用を持つと解するのが相当であり、一方、引用例(1)の技術の挾持部は、被支持部材を適当な圧力で挾持するものであり、被支持部材を挾持部から外すときは適当な力を加える必要があるから、この意味において、上記挾持部も、本件考案のフックと同じく、抜け止め作用を奏するということができる。そして、部材の抜け止め支持のためにフックを用いることは、従来からの周知技術である(例えば、実開昭58-30016号のマイクロフィルム(以下「刊行物A」という。)、実開昭48-9137号のマイクロフィルム(以下「刊行物B」という。)、実開昭59-129781号のマイクロフィルム(以下「刊行物C」という。)を参照)から、コードの端部及びソケットを挾持するよりも更に確実に抜け止めをする必要があるときは、コードの端部及びソケットの支持部にフックを用いることは、上記周知技術に倣って、当業者が適宜採用し得たことである。
(5) 結論
よって、本件考案は、引用例(1)及び(2)の技術並びに周知技術に基づいて、当業者が本件考案の実用新案登録出願前にきわめて容易に考案をすることができたものであって、本件実用新案登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してされたものであり、実用新案法37条1項1号の規定に該当し、これを無効とすべきものである。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)ないし(3)は認め、(4)及び(5)は争う。
審決は、相違点<1>及び<2>についての認定判断を誤り(取消事由1及び2)、また、本件考案の顕著な作用効果を看過し(取消事由3)、その結果、本件考案の進歩性の判断を誤ったものであって、その誤りは審決の結論に影響を与えることが明らかであるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(相違点<1>の認定判断の誤り)
(イ) 審決は、引用例(1)の技術において、基板係止爪141、141’に換えて、上記の引用例(2)の技術のような手段を用い、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである旨認定判断している。
しかしながら、引用例(1)の技術における中仕切りに設けられた基板係止爪は、それ単独では位置決めすることができず、これを中仕切りとは別体の基板の穴に係止し、この基板が箱の側壁に接することにより、箱内における位置決めがされるものである。
また、引用例(2)の技術の中仕切りにおける端部は、審決がいうような、中仕切りを箱体に対して位置ずれを起こさないように固定することができるというものではない。要するに、引用例(2)の技術に示された中仕切りの端部は、本件考案の包装枠のように、電球支持台の補助フックよりも外側に延びた一体構造となっていないので、実用に耐え得るような中仕切りの位置ずれ防止機能を有しているとはいえないものである。
更に、引用例(1)の技術と引用例(2)の技術とは、全体構成においても、ソケットやリード線を把持する部分の構成においても、また、それらを箱内で位置決めするための手段においても全く異なった構成を有するものであり、このような全く異なる技術を組み合わせたり、その一部を転用することは、いかに当業者といえども着想することが困難である。仮に着想し得たとしても、引用例(1)の技術の基板係止爪に換えて、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することによって、電球などの保持と中仕切りの箱内における位置決めとを単独の部材で可能にすることなど到底考えられるものではない。
(ロ) 審決は、相違点<1>に係る本件考案の構成は、換言すれば、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することである旨認定している。
しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「電球支持台の中央部上側に突設された補助フック」と記載されているところ、補助フックは、電球支持台の中央部上側に設けられているのであるから、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長しただけでは、その程度により補助フックの位置が電球支持台の中央部にはならないのである。結局、審決は、本件考案が「電球支持台の中央部上側に」補助フックが突設されていることについての作用効果を検討していないのであって、審決の上記認定は誤りである。
(2) 取消事由2(相違点<2>の認定判断の誤り)
(イ) 審決は、本件考案のフック及び補助フックは、いずれも被支持部材に対して多少なりとも抜け止め作用を持つと解するのが相当であり、一方、引用例(1)の技術の挾持部は、被支持部材を適当な圧力で挾持するものであり、被支持部材を挾持部から外すときは適当な力を加える必要があるから、この意味において、上記挾持部も、本件考案のフックと同じく、抜け止め作用を奏するということができる旨認定している。
しかしながら、本件考案のフック及び補助フックは、その名のとおり「フック」すなわち「鉤」であり、鉤とは「先の曲がった金属製の具。また、それに似たもの。」であり、先の曲がった鉤形になっているので、側方から挾持力を加えなくても先の曲がった部分で被保持物の抜け出しを防止する機能を有する。
一方、引用例(1)の技術の挾持部の凹部は、被挾持物の大きさに等しいか又はそれより小さい幅のV字状又はU字状の上部が開口した状態のものであるということができる。そして、これら凹部にソケットやリード線を側方からの抑圧力が働くまで押し込み、押し込まれて拡張された凸部が元の位置に復帰しようとする力によってそれらを挾持するものである。
したがって、本件考案のフック及び補助フックと引用例(1)の技術の挾持部とは、構成及び機能が全く異なっているのである。
(ロ) また、審決は、部材の抜け止め支持のためにフックを用いることは、従来からの周知技術であるから、コードの端部及びソケットを挾持するよりも更に確実に抜け止めをする必要があるときは、コードの端部及びソケットの支持部にフックを用いることは、上記周知技術に倣って、当業者が適宜採用し得たことである旨認定判断し、周知技術の例として刊行物AないしCを挙げている。
しかしながら、刊行物AないしCに示された支持手段は、いずれも実質的にはフックを用いたものとないえない。確かに、刊行物Aには一応「フック」なる用語はあるものの、具体的にはクリップとして説明されており、実質的にはフックと認められないものである。その他の2例には、フックを用いるとの記載はないし、具体的な形状からもフックとは認められない。しかも、刊行物AないしCには、電球やソケット又はコード類をフックによって保持した例はなく、まして、これら保持部材を2個1組で保持した例は示されていない。仮に刊行物AないしCにフックが示されていたとしても、電球やコードなどを2個1組のフックによって保持する例が記載されていない以上、引用例(1)の技術の挾持部をフックに置き換えることは容易に着想できるものではない。
(3) 取消事由3(顕著な作用効果の看過)
本件考案の「フック」及び「補助フック」は、上記のとおり、先の曲がった鉤形になっており、側方から挾持力を加えなくても先の曲がった部分で被保持物の抜け出しを防止することができる構成であるから、輸送中や保管中に逆さまになったり振動や衝撃が加えられても、電球やソケット及びそれらとコードとの接続部がフック及び補助フックから抜け出すことなく、その位置に係止された状態を維持できる。一方、引用例(1)の技術は、その挾持部の凹部にソケットやリード線を側方からの抑圧力が働くまで押し込み、押し込まれて拡張された凸部が元の位置に復帰しようとする力によってそれらを挾持するものであり、ソケットの挾持位置での断面形状やリード線の太さに合わせて各挾持部の切り込み形状を決めておかないと、十分な挾持力が発揮されないので、上記挾持部の凹部の幅や深さに適合した商品しか収納できない。このように、本件考案のフック及び補助フックは、引用例(1)の技術の挾持部に比べ、その構成の差異により、顕著な作用効果を奏するものである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、4は争う。審決の認定判断は、正当であって、取り消されるべき理由はない。
2 反論
(1) 取消事由1(相違点<1>の認定判断の誤り)について
(イ) 原告は、引用例(2)の技術の中仕切りにおける端部は、審決がいうような、中仕切りを箱体に対して位置ずれを起こさないように固定することができるというものではない旨主張しているが、引用例の記載から、上記のような結論を導き出すことはできない。
また、原告は、引用例(1)の技術と引用例(2)の技術とは、全体構成においても、ソケットやリード線を把持する部分の構成においても、また、それらを箱内で位置決めするための手段においても全く異なった構成を有するものである旨主張している。
しかしながら、引用例(1)の技術と引用例(2)の技術は、いずれも、装飾用電灯セットを収納する包装用箱の中仕切りという点で技術分野を共通にしているものであり、包装用箱箱内で中仕切りを動かなくするという課題にしても、その中仕切りの端部を箱の側面に突き当てるという課題解決手段にしても共通しているから、全く異なる技術であるとはいえない。
しかも、本件考案と引用例(1)の技術は、箱内に納めた包装用枠を位置ずれしなくさせる点で共通の技術課題を有し、かつ、ともに、箱内側面と基板側端面との当接によって位置ずれ防止がされているという点で、機能、作用を共通性にしている。
そして、引用例(1)の技術と引用例(2)の技術は、いずれも、ありふれた技術事項であるから、これらを組み合わせたり、その一部を転用したり、引用例(1)の技術の基板係止爪に換えて電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長して包装箱内面に突き当てることによって中仕切りを動かなくさせること(中仕切りの箱内における位置決めを行うこと)、あるいは、全体をプラスチックで一体成形するといった程度のことは、当業者であればきわめて容易に想到し得ることである。
(ロ) 原告は、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「電球支持台の中央部上側に突設された補助フック」と記載されているところ、補助フックは、電球支持台の中央部上側に設けられているのであるから、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長しただけでは、その程度により補助フックの位置が電球支持台の中央部にはならない旨主張するが、「中央部」という用語は、中央からどの程度離れると中央部でなくなるのか、その限界はきわめて暖昧であり、本件明細書には、補助フックの位置を電球支持台の中央部とした意義について格別の記載はなく、また、「中央部」といえないところまで延長することは、通常の技術常識では考えられないことであるから、審決の認定が誤りとはいえない。
(2) 取消事由2(相違点<2>の認定判断の誤り)について
(イ) 原告は、本件考案のフック及び補助フックは、その名のとおり「フック」すなわち「鉤」であり、鉤とは「先の曲がった金属製の具。また、それに似たもの。」であり、先の曲がった鉤形になっているので、側方から挾持力を加えなくても先の曲がった部分で被保持物の抜け出しを防止する機能を有する旨主張するが、先端が鉤形に曲っている凸片4a、5aについてはフックといえたとしても、該凸片4a、5aの先端折曲箇所と真っ直ぐな凸片4b、5bの先端箇所との間に隙間を形成した本件のような形態のものまでもフックといえるかは疑問である。
また、本件考案においては、単にフック及び補助フックといっているのみであるから、本件考案のフック及び補助フックが、挾持作用によって装飾用電球を係止及び支持していないとはいえない。
(ロ) 原告は、本件考案のフック及び補助フックと引用例(1)の技術の挾持部とは、構成及び機能が全く異なっている旨主張するが、上記主張は本件明細書の基づくものではなく、また、通常の技術常識からみて合理的な理由のあるものともいえない。
(ハ) 原告は、刊行物AないしCに示された支持手段は、いずれも実質的にはフックを用いたものとはいえない旨主張するが、フックの形態について明確な概念があるものでもなく、また、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載においても、格別の特定はされていないのであるから、刊行物AないしCにフックが示されていないとはいえず、また、刊行物AないしCをみると、挾持作用のほかに、隙間を狭めるために形成されたくびれ箇所が抜け止め作用を呈することが示されていない。
また、原告は、刊行物AないしCには、電球やソケット又はコード類をフックによって保持した例はなく、まして、これら保持部材を2個1組で保持した例は示されていない旨主張するが、刊行物Cには、リード線挾持部とソケット挾持部の2点支持の構成が示されているのである。
(3) 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について
原告は、本件考案のフック及び補助フックは、引用例(1)の技術の挾持部に比べ、その構成の差異により、顕著な作用効果を奏する旨主張するが、本件考案において、フックという構成を採用したからといって、格別の効果が得られるとはいえない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の実用新案登録請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 本件考案の概要
甲第2号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件明細書には、次の記載があることが認められる。
1 産業上の利用分野
「この考案は、クリスマスツリー用の装飾電球のように、コードに多数の豆電球が取付けられた装飾電球を包装する為に使用される、装飾電球用包装枠に関するものである。」(1欄13行ないし16行)
2 従来の技術
「この種の装飾電球は、通常ボール紙製の箱に包装して運搬、販売されている。そして、装飾電球を直に箱へ収納すると、コードと豆電球が錯綜し、包装状態が雑然としてしまう。そこで、箱内に包装用枠を装着し、その枠に豆電球を係止させることにより整然とした包装状態を得るようにしている。」(1欄18行ないし24行)
3 考案により解決しようとする問題点
「ところで、上記従来の包装用枠においては、電球或いはコードの電球との接続部を係止する為の係止部がコード収納部13の両側に形成された壁12に設けられているのみであった。その為に、前記係止部によって電球の基部の位置は規制されるものの、電球の先端側の位置を規制することができず、隣接する電球同士が重なり合う等、収納状態が雑然となってしまい、展示した場合の見栄えも悪い、という問題点があった。」(2欄6行ないし14行)
4 問題点を解決するための手段
本件考案は、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用し、「コード収納用の凹溝に連設された電球支持台の基部上面に電球若しくはソケットの基部又はコードを係止する為のフックを突設すると共に、前記電球支持台の中央部に電球又はソケットを係止する為の補助フックを突設して装飾電球用包装伜を構成することにより、上記従来の問題点を解決したものである。」(実用新案登録請求の範囲、2欄16行ないし22行)
5 作用
「この考案において、電球支持台の基部に突設されたフックには、電球若しくはソケットの基部又はコードの端部が係止され、以て電球又はソケットの基部の位置が規制される。また、電球支持台の中央部に架設された補助フックには、電球又はソケットの中央部が係止され、以て電球又はソケットの中央部の位置が規制される。そしてその結果、電球は実質的にフックと補助フックとの2点でその位置が規制されることとなり、必ず所望の位置に収納される。したがって、隣接する電球と重なり合うおそれもなく、整然とした見栄えの良い収納状態が得られ、上記従来の問題点は解決される。」(2欄24行ないし3欄8行)
6 効果
「この考案によれば、装飾用電球をフックと補助フックの2点に係止、支持することができる。その為に、包装用枠に収納された電球の位置及び向きを完全に規制することができ、多数の電球がばらばらの方向を向いたり、隣接する電球同士が重なり合ったりする虞れなく、整然と収納することができる。したがって、包装状態の見栄えが良く、しかも運搬中等において電球同士が接触したりして生じる事故も未然に防止することができる。」(4欄25頁ないし34行)
第3 審決を取り消すべき事由について判断する。
1 取消事由1(相違点<1>の認定判断の誤り)について
(1) 原告は、審決は、引用例(1)の技術において、基板係止爪141、141’に換えて、上記の引用例(2)の技術のような手段を用い、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである旨認定判断しているが、この認定判断が誤っている旨主張するので、検討する。
(2) 本件考案と引用例(1)の技術とが、電球支持台における電球又はソケットの支持箇所を、本件考案では、電球支持台の中央部としたのに対し、引用例(1)の技術では、電球支持台の端部とした点で相違すること(相違点<1>)は、審決認定のとおりであり、原告、被告ともに争わないところである。
(3) ところで、審決は、相違点<1>に係る本件考案の構成は、換言すれば、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することであり、本件考案は、この構成によって、電球支持台の端部である側縁を、その外側に配置される箱体の内面に突き当て、箱体に対する包装枠の位置決めをすることができるようにしたものであると認定している。
しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「該溝の両側にほぼ水平方向に連設された電球支持台と、該電球支持台の基部上側に突設されたフック及び電球支持台の中央部上側に架設された補助フックとを有する」との記載があって、同記載によれば、補助フックは、「電球支持台の中央部上側」に突設されているというのであるところ、引用例(1)の技術においては、単に、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長したことによって、直ちに、電球又はソケットの支持箇所の位置が電球支持台の中央部になるものではない(電球又はソケットの支持箇所が本件考案にいう「電球支持台の中央部」に該当する位置まで端部を延長させる必要がある。)。更に、本件考案の実用新案登録請求の範囲から、本件考案が、上記構成によって、電球支持台の端部である側縁を、その外側に配置される箱体の内面に突き当て、箱体に対する包装枠の位置決めをすることができるようにしたなどという構成を読み取ることができないことは明らかである。
そうすると、相違点<1>に係る本件考案の構成についての審決の上記認定は誤っており、同認定を前提とする審決の相違点<1>についての認定判断、すなわち、引用例(1)の技術において、基板係止爪141、141’に換えて、上記の引用例(2)の技術のような手段を用い、電球支持台の端部を電球又はソケットの支持箇所よりも外側に延長することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものであるとの認定判断は、前提を欠いており、理由がないことに帰する。
(4) 上記のとおり、審決は、相違点<1>についての認定判断を誤っているものであるところ、審決は、相違点<1>は当業者が引用例(1)の技術に引用例(2)の技術を組み合わせることによってきわめて容易に想到し得たとするものであるから、上記相違点<1>についての認定判断の誤りが上記想到性の認定判断を左右するものであるか否かについて考察する。
(イ) 引用例(2)の技術は、同じ引用例に記載されている引用例(1)の技術に対して従来技術に当たるものであることは、引用例の記載全体から明らかであるところ、引用例には、引用例(2)の技術の中仕切りの構造について、「厚紙の中央部を包装用箱の底部に接触する基部1とし、基部1の両側に装飾用電灯を保持する凸状部2及び3を形成する。即ち、凸状部2及び3は折曲部8、9、10及び折曲部11、12、13で形成する。厚紙の両端部と折曲部8及び13との間は、包装用箱の両側板に接触固定し、凸状部2及び3の形状を保持する凸状保持部4及び5とする。そして、凸状保持部4及び5の底面と基部1の底面は同一平面とし、包装用箱の底面に面接触する様に形成する。凸状部2及び3の折曲部9及び12に装飾用電灯のコードを挾持する切欠部6及び7を形成する。」(2欄1行ないし12行)との記載があることが認められる。
上記記載によれば、引用例(2)の技術においては、凸状部の形状を保持し、ひいては、中仕切りが包装用箱内で位置ずれしないように、凸状保持部の外側端部を、当該端部が包装用箱の側板に接触するに十分な長さにまで延長するという技術が記載されているものと認められる。
(ロ) 次に、引用例には、「従来の装飾用電灯の包装用箱の中仕切には第1図の厚紙で折曲した中仕切の斜視図が示す様に形成されていた。」(1欄26行ないし末行)、「しかし、この種の装飾用電灯セットにおいては、包装用箱を上積みすると、上からの重圧を受けた箱の包装用中仕切の折曲部9及び12に圧力が加わる。・・・包装用箱の強度は、内容物の価値等の相関関係で、必ずしも強いものを使用することができない。そして、荷重及び装飾用箱の強度のバランスは必ずしも均等であるとは限らない。したがって、大きな重圧が凸状部2又は3の一方に加わると、加わった方の凸状部の折曲部8-10間又は折曲部11-13間の間隔が拡がり、他方の間隔が狭まる。間隔が拡がった凸状部は、凸状部の高さが低下し・・・電球、笠等が破損することがある。」(2欄17行ないし3欄8行)、「本考案は、上記の様な従来例の欠点を除去し、包装用箱を上積みしても、装飾用電灯の電気的接触不良、電球、笠、ソケット等の破損を防止し、内容物の保護を完璧に行なうことのできる装飾用電灯の中仕切の提供を第1目的とする。」(3欄20行ないし24行)との記載があることが認められ、上記事実によれば、引用例(2)の技術には、凸状部、凸状保持部の構造、機能に欠点があったので、この欠点を除去したものとして、引用例(1)の技術に係る考案を提案しているものである。
(ハ) そこで、引用例(1)の技術を検討すると、引用例には、「電球、笠、ソケットが一体に固着されると共にそれに用いるリード線からなる装飾用電灯セットを収納する包装用箱の中仕切において、ソケットを収受する凹部及び挾持する凸部から形成されるソケット挾持部と、該ソケット挾持部に対して並設し、リード線を収受する凹部及び挾持する凸部から形成されるリード線挾持部と、ソケット挾持部の下部とリード線挾持部の下部とを必要間隔に保持する間隔保持部と包装用箱内の配置を決める基板の穴に取りつけられる基板係止爪を一体に形成して成ることを特徴とする装飾用電灯セットを収納する包装用箱の中仕切。」(実用新案登録請求の範囲)との記載があることが認められる。また、引用例には、引用例(1)の技術に関するものとして、「第4図は、本考案の第2実施例である。図中、リード線挾持部120、ソケット挾持部130及び基板係止爪141及び141’は第2図で示した本考案の第1実施例のリード線挾持部20、ソケット挾持部30及び基板係止爪41に相当する。」(5欄16行ないし21行)、「両ソケット挾持部130側のみに設けた基板係止爪141及び141’は、全体で2個以上設けて基板に取り付ければ、包装用箱内で位置ずれを生ずる恐れがない。」(5欄29行ないし32行)との記載があることが認められる。上記の事実によれば、引用例(1)の技術においては、前記(イ)に認定した、凸状部の形状を保持し、ひいては、中仕切りが包装用箱内で位置ずれしないように、凸状保持部の外側端部を、当該端部が包装用箱の側板に接触するに十分な長さにまで延長するという前記(イ)認定の引用例(2)の技術を廃し、包装用箱内の配置を決める基板の穴に基板係止爪を取り付けることによって、包装用箱内で位置ずれを防止するという作用を奏させるものと認められる。
(ニ) そうすると、引用例(1)の技術に、凸状部の形状を保持し、ひいては、中仕切りが包装用箱内で位置ずれしないように、凸状保持部の外側端部を、当該端部が包装用箱の側板に接触するに十分な長さにまで延長するという引用例(2)の技術を組み合わせるという発想は、生じる余地がないものと認められる。
(ホ) 以上によれば、引用例(1)の技術に引用例(2)の技術を組み合わせることによって当業者が相違点<1>に係る技術にきわめて容易に想到し得たとする審決の認定判断は、誤っているものといわざるをえない。
2 取消事由2(相違点<2>の認定判断の誤り)について
(1) 原告は、審決は、本件考案のフック及び補助フックは、いずれも被支持部材に対して多少なりとも抜け止め作用を持つと解するのが相当であり、一方、引用例(1)の技術の挾持部は、被支持部材を適当な圧力で挾持するものであり、被支持部材を挾持部から外すときは適当な力を加える必要があるから、この意味において、上記挾持部も、本件考案のフックと同じく、抜け止め作用を奏するということができる旨認定しているが、この認定判断が誤っている旨主張するので、検討する。
(2) 本件考案と引用例(1)の技術とを対比すると、電球若しくはソケットの基部又はコードの端部の支持部、及び、電球又はソケットの支持部について、本件考案では、これらの支持部をフックとしたのに対して、引用例(1)の技術では、これらの支持部を挾持部とした点で相違すること(相違点<2>)は、当事者間に争いがない。
(3) 本件考案の実用新案登録請求の範囲及び前記第2の4ないし6認定の事実によれば、本件考案は、「コード収納用の凹溝と、該溝の両側にほぼ水平方向に連設された電球支持台と、該電球支持台の基部上側に突設されたフック及び電球支持台の中央部上側に架設された補助フックとを有する」という構成を採用することによって、フックにより電球又はソケットの基部の位置が規制されるとともに、補助フックにより電球又はソケットの中央部が規制され、その結果として、電球が、フックと補助フックとの組合せによって2点で位置が規制され、そのため、包装用枠に収納された電球の位置及び向きを完全に規制することができるので、装飾用電球を所望の位置に収納することができるというものである。
(4) そこで、本件考案にいう「フック」の技術的意味について考察する。
「フック」とは、通常の用語例に従えば、「鉤」、「鉤形のもの」、「ホック」といったことを意味し、同「鉤」とは、「先の曲がった金属製の具。また、それに似たもの。」、「<1>先が曲がった金属製・木製の器具。・・・<2><1>のように曲がった形。そういう形をしたもの。」といったことを意味するものである(甲第8号証、広辞苑第4版、大辞林参照)。
ところで、本件考案にいう「フック」の意義については、実用新案登録請求の範囲に考案の詳細な説明において、特段の説明がされていないことからすると、上記通常の意味で使用されているものと認められ、上記(2)認定の事実と併せ考えれば、本件考案にいう「フック」とは、先端に曲がり部を有する鉤型形状をした突設物で、ソケットの基部又はコードを係止する機能を有するものを意味するものと認められる。本件考案の「フック」及び「補助フック」は、その構成に基づいて当然かつ本来的に、ソケットの基部又はコードを係止する機能を有するものと認められる。
(5) 一方、引用例によれば、引用例(1)の技術のリード線挾持部ないしソケット挾持部について、「本考案は、前記目的を満足するために、ソケットを収受する凹部及び挾持する凸部から形成されるソケット挾持部と、該ソケット挾持部に対して平行に設け、リード線を収受する凹部及び挾持する凸部から形成されるリード線挾持部と、包装用箱内にあって、収納物の配置を決定する基板の穴と嵌合する基板係止爪を一体に形成して成る構成を特徴とするものである。」(3欄30行ないし37行)、「ソケット挾持部30は、凹部31及び凸部32からなる。凹部31の幅及び深さは、ソケットAの径に等しいか、或いはそれ以下の幅で、ソケットAを収受した場合に笠Bの開口部が、ソケット挾持部30の下部と同一平面になるようにその深さを決定する。」(3欄41行ないし4欄2行)、「第4図は、本考案の第2実施例である。図中、リード線挾持部120、ソケット挾持部130及び基板係止爪141及び141’は第2図で示した本考案の第1実施例のリード線挾持部20、ソケット挾持部30及び基板係止爪41に相当する。」(5欄16行ないし21行)との記載があることが認められ、同記載によれば、引用例(1)の技術におけるリード線挾持部は、同挾持部の凸凹形状が生起する挾持力によって装飾用電灯のリード線を挾持するものであり、また、同ソケット挾持部は、同じく、同挾持部の凸凹形状が生起する挾持力によって、装飾用電灯のソケットを挾持するものであることが認められる。
そうすると、本件考案の「フック」及び「補助フック」と、引用例(1)の技術のリード線挾持部ないしソケット挾持部とは、ともに上位概念として掛け止め作用を有するものであるとはいえ、その構成、機能が基本的に相違しており、技術内容を異にしているものというべきである。
(6) この点について、被告は、本件考案においては、単にフック及び補助フックといっているのみであるから、本件考案のフック及び補助フックが、挾持作用によって装飾用電球を係止及び支持していないとはいえない旨主張する。
しかしながら、本件考案にいう「フック」は、前記認定のとおり、ソケットの基部又はコードを係止する機能を有するところの、先端に曲がり部を有する鉤型形状をした突設物をいうのであるから、この構成から、必然的に、本件考案のフック及び補助フックが、挾持作用によって装飾用電球を係止及び支持する作用を有するものということはできないのであって、被告の上記主張は、採用することができない。
(7) 審決は、部材の抜け止め支持のためにフックを用いることは、従来からの周知技術であるから、コードの端部及びソケットを挾持するよりも更に確実に抜け止めをする必要があるときは、コードの端部及びソケットの支持部にフックを用いることは、上記周知技術に倣って、当業者が適宜採用し得たことである旨認定判断し、周知技術の例として刊行物AないしCを挙げているので、この認定判断の当否について検討する。
一般的にいえば、フックが、部材の抜け止め支持作用を有することは、刊行物AないしCを挙げるまでもなく周知の事実である。
ところで、本件考案は、前記(2)認定のとおり、フックにより電球又はソケットの基部の位置が規制されるとともに、補助フックにより電球またはソケットの中央部が規制され、その結果として、電球が、フックと補助フックとの組合せによって2点で位置が規制され、そのため、包装用枠に収納された電球の位置及び向きを完全に規制することができるというものであるから、容易推考性を判断するに当たっては、電球もしくはソケットの基部又はコードを係止するために、一対の組合せとして特定部位にフックを配列したことが、当業者にとってきわめて容易に推考し得たかどうかを考察する必要がある。
まず、本件考案のような装飾電球用包装枠に関する技術分野において、装飾電球を所定の位置に確実に収納するために、一対の組合せとして特定部位にフックを配列した技術が本件考案の実用新案登録出願前に存在したことを認めるに足りる証拠はない。また、相違点<1>に係る本件考案の構成、すなわち、電球支持台における電球又はソケットの支持箇所を電球支持台の中央部としている点は、新規な技術であって、しかも、当業者がきわめて容易に想到し得たものとはいえないものであることは、既に認定判断したとおりである。しかも、本件考案の「フック」及び「補助フック」が、引用例(1)の技術のリード線挾持部ないしソケット挾持部と、その構成、機能において基本的に相違していることは、前記(4)認定のとおりである。
以上を総合すると、引用例(1)の技術のリード線挾持部ないしソケット挾持部に換えて、電球支持台の基部上面にフックを、電球支持台の中央部に補助フックをそれぞれ設けることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものとはいいがたい。
3 以上認定したところによれば、相違点<1>及び<2>についての審決の認定判断はいずれも誤っており、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
第4 よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成11年5月25日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
別紙図面(1)
<省略>
別紙図面(2)
<省略>